企画調査委員会
パタン・ランゲージの理論編:「The Timeless Way of Building(時を超えた建設の道)」
鹿島出版会/1993年
C・アレグサンダーは,周知のように1936年ウィーンに生まれ,カリフォルニア大学に在籍しつつ,「パタン・ランゲージ」を始め数多くの建築や都市に関わる論文を残した著名な学者である。
私が最初に触れたのは,「コミュニティとプライバシイ」(1967年 鹿島出版会)であった。この時は早稲田の建築の学生で,「コミュニティ論(半公共空間)」に関心があったことと,鹿島出版会の黒い装丁の「SD選書」にミーハー的な興味を持っていたため,たまたま手にしたものであった。しかし,コミュニティのことはあまり論じられてなく,大量文化や自動車,騒音等によって都市居住者のプライバシイが損なわれ,それをどのようにすれば都市居住の計画や設計で守れるかといった趣旨のものであったものと記憶をしている。この本では,建築家のS・シャマイエフと共著であるが,中心ではなかったようだ。しかし,ここで,「諸問題は型(パターン)を持つ」と記されており,彼の理論であるパタン・ランゲージの萌芽がみられる。また,自然と遊離した脈略のない郊外開発,自動車に過度に依存した社会などの都市や建築に対する問題認識が後の彼の理論に根付いていると思われる。
さて,名著として取りあげた「時を超えた建設の道」は,「パタン・ランゲージ」の本を広げた際の前文に「パタン・ランゲージ」は第2巻であり,第1巻の「The Timeless Way of Building(時を超えた建設の道)」と併読すべしと記されていることから,この著を読まずにいられなかったのである(第3巻の実践編「オレゴン大学の実験」を含めて3部作と言われている)。この2つの著書は,本書の第1巻が理論編で,第2巻がマニュアル編と言われている。構成は第1部「質」,第2部「門」,第3部「道」であり,目次構成をみても理論編らしく難解さが伺われる。その点は著者も意識したのだろうか,「本書を読む前に」という前文に,「本書の内容は,細部よりむしろ全体の把握が重要であろう」とし,前段に数ページにわたる「詳細な目次」があり,文中において太字で記されている要点を並べている。これを読めば,本書の全体像が1時間をかけずに把握出来ると記されているが,それは無理である。一時期流行った有名哲学書の「超訳」みたいなもので,やはり全体を通して,ていねいに眠さをこらえつつ読むことが肝要である。
都市や建築の計画・設計手法をその土地の歴史や文化に根ざした相互に繋がり合うパタン・ランゲージとして捉えているところが最も大きな特色であり,根底の価値観は,ル・コルビジェの輝く都市への批判にみられるように,巨大さや無機的な人工空間より,「人間にとって気分が良いと感じる空間,生き生きとする空間」だと理解される。
C・アレグサンダーの理論はその後,サスティナブル・デザインやニューアーバニズム,さらにはプレイスメイキングにつながっていると言われており,今日でも脈々と息づいている。本書は彼の理論を最も良く理解出来る著書と言える。
紹介:(株)エックス都市研究所 佐伯直
(都市計画322号 2016年9月15日発行)