企画調査委員会

名著探訪

都市計画

小川博三

共立出版/1966年

 小川は1913年に岩手県で生まれ,1937年に北大工学部土木工学科を卒業後,南満州鉄道株式会社へ入社,現職のまま大東亜省嘱託として東南アジア諸国の交通調査を行う。1946年帰国後,運輸調査局嘱託となり,1963年に北大教授となった。著書の原典は北大の講義「聚落論」である。紹介者の講義ノ-トよりその一端を紹介しよう。
 都市や村落はどのようにして発生するのであろうか。また,どのような機能を目的として発生するものであろうか。おそらくは防衛であり,信仰であり,生活であり,従って政治であったと想像される。古代に於ける国家は殆ど都市国家であった。ギリシア,インドなどの遺跡はそれを証明する。
 著者の想像をもってすれば,都市をして都市たらしめん最大の原因は外敵意識ではなかったろうか。この事を裏返してみれば,外敵のなかった所には都市意識は発生しがたかった。わが国に於いて外敵の意識されたところは僅かに東北地方である,そこにはいくつかの柵城が設けられたが,その中に神社があり,政庁があったにしても,生活をもつ都市まで発達したかどうかは疑問である。
 このような都市意識の未熟さは今日の日本人の都市計画の拙劣さにつながるものである。わが国の都市は貧しい故に,計画が行われないのではなく,思想の或いは意識の貧しさの故に計画がたて得ないのである。実は,この意識の貧弱さを究明することがわが国都市問題解決の鍵である。例えば,わが国の都市は多くの迷路のような街路網をもって居る。従来の史家や都市計画者は之を説明して敵を防ぐ為のものとした。しかし,こうした説明には余程注意しなければならないのであって,祖先崇拝の面がしばしば城下町建設者を誇大に賞賛し説明する場合がある。日本人は横丁のやき鳥屋にもぐり込み,袋小路の質屋を好む癖があるように,実は小さなまとまり,行き詰まりのある路に一つの安心感を覚えているのではなかろうか。また,道路網という観念のないことが,勝手に家を建てその後に道路ができるという現象を生むのであって,無為秩序な都市を建設してゆくのであろう。
 聚落論のねらいは,如何にして発生するのか,いかなる支配を成すか,いかなる習癖を持つか,という事であって,地理学,社会学,民俗学の知識を得て,新しい観点からの問題を整理して,わが国に固有の都市意識を醸成してゆくことにある。
 小川は歌人としても有名であった。紹介者は小川の最後の弟子である(現役教授のときに63歳で逝去された)。

紹介:北海道大学大学院教授 田村亨

(都市計画323号 2016年11月15日発行)

一覧へ戻る