企画調査委員会

名著探訪

歩行者の空間:理論とデザイン

ジョン・J・フルーイン 著/ 長島正充 訳

鹿島出版会/1974年

 本書は,1974年に出版された歩行者空間の総合的な計画論について徹底的に考察した図書であり,歩行空間の計画・実現の方法が記載されている。
 1979年,都市工学科を卒業した私は,建設会社の開発計画部門に配属され大型の都市開発の企画を担当することとなった。当時の都心部では,それまでの建物が機能的に陳腐化するなど建替えに起因して再開発が企画され始めた時代であった。ある大型駅前開発プロジェクトで交通の結節点となる駅や交差点と新しい建物をつなぐ新たな地下通路を整備することが求められた。その際に手にしたのが本書である。大学時代はどちらかというと都市を学ぶことより,都市に遊ぶことに多くの時間を過ごしてしまった軟派な私にとって,新たに整備する地下通路の必要幅員についての理論的根拠づけに大変参考になった図書だったと記憶している。
 今回,この寄稿依頼を受けて地元の図書館に出向き本書を30年ぶりに手にとることとなった。当時,増大する自動車交通の円滑化という視点での道路整備の考え方が中心であった時代に,都市に生きる人間の歩行環境が抱える課題に着目し,様々な視点から計画的標準の整理,提案のみならず,身障者のために解決すべきデザインの在り方についても触れられており,著者の見識の深さを感じる。歩行者空間のサービス水準という考え方は現在においても指標として使われており40年の時代を経てもこの分野の基本となる参考図書である。

紹介:(株)竹中工務店執行役員 児玉正孝

(都市計画324号 2017年1月15日発行)

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