企画調査委員会

名著探訪

DOWNTOWN, INC.
:How America Rebuilds Cities

Bernard J. Frieden ・Lynne B. Sagalyn

The MIT Press /1991年

 本書はマサチューセッツ工科大学(MIT)都市計画学科のバーニー・フリーデン教授とリン・サギャーリン教授が修士課程の授業用にまとめた中心市街地再生のケーススタディをもとに,書籍に再編,1991年に出版されたものである。私自身,同修士課程に在籍し,1989年に両教授の授業に参加し,多くの刺激と感銘を受けたことを記憶している。
 1960,70年代,アメリカの大都市では郊外部で中間所得者向けの住宅と大型のショッピングモールが大量供給され,一方,多くのダウンタウン=中心市街地では荒廃が進み,麻薬患者やホームレスがたむろし,犯罪が多発する一般人が近寄らない場所となっていた。
 本書ではボストンのファニュアルホールマーケットプレイスやサンディエゴのホートンプラザなどの事例を通じて,中心市街地に商業機能や良質なパブリックスペースを再整備する過程で行われた民間デベロッパーと地元自治体のPPP(Public-Private Partnership)に焦点をあてている。当時の米国では地方自治体が,多額の土地収用費などの事業費を先行投資し,デベロッパーとは“ディール=交渉”過程を10年オーダーで継続し,双方が協力しながら段階的にプロジェクトを実現していったことが特徴である。この点で,日本で言われるPPPとはかなり異質なものである。
 今日,日本の地方都市では中心市街地の空洞化に対し,立地適正化計画に基づいたコンパクトシティ化を目指す動きがトレンドとなっている。日本の中心市街地は当時のアメリカの都市ほど荒廃していないし,Tax Increment Financingなど公債制度にも大きな違いがあるが,“資本主義の国=米国”でも民間の力では実現できなかった中心市街地の活性化にあたり,地方自治体が大きな役割を担った。特に自治体首長,地方議会議員,自治体職員の方々に読んで頂きたい一冊である。参考までに,翻訳本として「よみがえるダウンタウン,アメリカ都市再生の歩み」北原理雄訳,鹿島出版会,1992年も出版されている。

紹介:大成建設(株)都市開発本部 理事副本部長 山村貴晴

(都市計画327号 2017年7月15日発行)

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