企画調査委員会

名著探訪

都市を計画する

田村 明

現代都市政策叢書・岩波書店/1977年

 中央政府や民間企業などでの経験を経て,自治体の計画・政策部門の統括者として,横浜市六大事業をはじめ自治体における都市政策の総合化など,大きな功績をなした本書の著者がその経験を踏まえて執筆した書籍は数多い。その意味で本書も,実践的経験にもとづいた鋭い問題提起を数多く含んでいるが,同時に,本書は,著者の都市問題に関する豊富な学識によって,理論的にも極めて含蓄のある学術書あるいは教則本となっている。それゆえ,実践的問題と理論が重層的に積み上げられており,本書を通して読者は自身の関心に合わせて,著者と議論することができ,豊富な国内外の文献や事象を引用した都市や計画に関する著者の講義を受けることもできる。なお,紹介者は修士課程で要綱研究をするなかで,著者の学識部分に触れ,助言と博士論文(田村明(1980)「宅地開発における開発指導要綱の成立過程とその基礎的都市環境整備への効果に関する総合的研究」1980年10月,東京大学),そして本書を頂戴する機会を得た。
 本書は,「都市を計画するとは如何なることか」という問いを大きく3つの部分に分けて展開し,都市問題解決の基本方向を示している。都市の生成の歴史的考察から現代都市の問題全体を把握しようとする部分,都市問題の解決をめざす計画に関して,その内容と特徴の理解の上に立って,市民参加等に関連した諸問題を解決しようとする部分,今後の計画のあり方を実践的,規範的に明らかにしようとする部分である。これらの内容は,都市を静態的でなく動態的な存在としてとらえ,これに実践的かつ有効に立ち向かおうと考える際に生じる課題が中心となっている。それは,日本の都市計画が,第一に全体的総合性が欠如しており,第二に市民性が欠如しており,そして第三に,計画に対する無力感があり,計画は計画だけに終わるという実践性が欠如しているという著者の問題意識に起因している。
 本書が執筆された時代は,「我々はいま『都市』という途方もなく巨大で複雑なモンスターと闘っている」という表現からも分かるように,人口増加とそれに伴う都市問題という,今日とは異なる社会情勢下にあった。また,著者が「闘った」自治体現場の状況も今日とは異なっている。しかし,著者が抱いた問題は今日もなお解決されず,さらに複雑化しており,著者が提唱した都市計画の総合性,市民性,実践性がより求められる時代になっている。
 このような時代の「都市計画」を再考し,その意義を見出すために,都市に立ち向かった著者の実践と理論に向き合うことをお勧めしたい。

紹介:駒澤大学教授 内海麻利

(都市計画330号 2018年1月15日発行)

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