企画調査委員会

名著探訪

自然立地的土地利用計画

井手久登・武内和彦

東京大学出版会/1985年4月

 本書が出版された当時,すでにI・マクハーグの「Design with Nature」が出版されていた。レイヤーケーキモデルの環境認識は,大学生だった私たちの基礎知識でもあったのだが,その重ね合わせの「合理性」にモヤモヤしてもいた。そんななか出会った本書に,私は他の生態学「的」な計画論との大きな違いを感じていた。
 本書は生態学(植物社会学)の立場から自然環境を分析・理解し,土地利用計画へ適用している。その特徴は,まず環境に関わる要素の重ね合わせや重みづけが,必ずしも「自由に」操作できないことを示唆したことにあった。因果関係のある要素をきちんと把握せず,「独立」でない指数やパラメータを重ねてしまっては正しく評価できない。本書は,自然/人文側面を区別し,現存植生を「土地自然条件」としては扱わず土地利用の「表現系」として扱い,一方,土地自然としては「潜在自然植生」の概念を用いて,評価すべき立地の「ポテンシャル」を明確にした。次にこの潜在自然植生と現存植生の関係性を,植生遷移の「代償系列」に基づいて秩序立てた。個別のレイヤーごとに分断されてしまいがちな要素間を結びつけ,同時に計画の変化の方向性も示唆した。最後に,計画における空間単位として自然地理学,地形分類の体系に依拠した「自然立地単位」を設定した。通常グリッドセルに基づく分析では,データの重ね合わせの結果生じるセルの集合体には,形態の意味や根拠を見出すことが容易ではなかった。本書では,地形分類に基づいて単位に意味を持たせ,等質なユニットとその組み合わせであるシステムを用いて理論を展開する。
 自然立地的土地利用計画の適用は限られた範囲に留まったが,今日ではPC処理能力やGIS技術が向上し,専門的な土地自然情報の入手の容易さは当時とは比べものにならない。さらに少子高齢化が進み,経済成長を基盤としない都市計画が模索されるなか,立地適正化や都市・郊外の境界部の再編,自然災害へのレジリエンスなど,土地自然の潜在的な能力と系列を読み解く必要性は高まっている。一方,都市計画の周辺には,ビッグデータに基づくさまざまな新たな指標が「浮遊」し,重ね合わされている。それらを土地とどう結びつけるか?変動しつつある都市計画分野において,私自身の立ち位置や計画的思考を見直すために,折に触れて再読したい,私の名著である。

紹介:工学院大学教授 篠沢健太

(都市計画335号 2018年11月15日発行)

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