企画調査委員会

名著探訪

The Social Life of Small Urban Spaces

William H. Whyte

The Conservation Foundation/1980年

 ニューヨークのブライアント・パークは,まちに賑わいをもたらす公園として近年よく取り上げられるが,かつて1970年代には荒廃した「危険な公園」であった。公園の課題を分析し再整備計画の助言を行うように公園周辺の関係者から求められたのが,ウィリアム・ホワイトである。当時ホワイトは,公共空間における人々の行動を観察し,どのように使われているか(使われていないか)を調査分析する,ストリート・ライフ・プロジェクトを展開していた。このプロジェクトをもとに本著は生まれている。
 ストリート・ライフ・プロジェクトは,NY市の都市計画に関わるようになったホワイトが,計画によって創出される都市のパブリックスペースの利用実態の調査がなされていないことに,疑問を持ったことからはじまっている。当初数年の予定であった,人々の活動と空間の関係性を主に実地観察によって分析するプロジェクトは,1975年のProject for Public Spaces(PPS)の創設にもつながる。それから40年以上,PPSの公共空間に関わる活動,プレスメイキングは全米はもとより47か国にわたる3000の地域で展開されている。
 ホワイトは,同世代のジェーン・ジェイコブスや,ブルームバーグ前NY市長(2002~2013年)のもと公共空間の再生をすすめた,アマンダ・バーデン前NY市都市計画部長を含む多くに影響を与えている。バーデン氏のもと改正された公開空地の整備指針には,ホワイトが言及している快適に座れる場所の充実や,容易なアクセスの重視等の点が取り
入れられている。
 紹介者がこの本に出合ったのは,今のニューヨークからは想像もできないが,多くのホームレスが物乞いの手を差し出してくるなか,プロセス・アーキテクチャー誌『ポケットパーク』の地図の縮小コピーを手のひらにおさめ(悠長に地図を見ることは大変危険とされていた),寒さに震えながら見て回った時であった。本屋でこのタイトルを見出し,ポケットパークをみていた外部空間の設計という視点に,ソーシャル・ライフという新たな視座が加えられた。
 本著は,アメリカ都市計画協会が全国大会100周年を記念して発表した,都市計画に関わる名著100冊の一冊にも選出されてもいる。本著の日本語訳はないが,ホワイトの他著『都市という劇場(原題City: Rediscovery of the Center (1988))』に部分的に含まれている。

紹介:東京都市大学教授 坂井文

(都市計画337号 2019年3月15日発行)

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