企画調査委員会
Collaborative Planning: Shaping Places in Fragmented Societies
大学受験は,共通一次で,英語Bと英語Aを誤って回答し,浪人した。その浪人時代,後に宇宙工学を専攻したものの中退し僧侶になった高校の友人の影響や家庭環境もあり,社会科学に目覚めてしまう。浪人して最初の模試では,数学で全国トップ(ただし多数の同点がいたが)をとったものの,図書館で,社会科学の図書にかぶれる毎日となり,成績は急降下してしまう。その当時,フーコーやフッサール,フロイトやピアジェ,そして,近年目にすることが多いシューペンターなどの訳本も読破していた。
しかし,ハバーマスについては縁がなかった。細谷など一部を除き,ハバーマスの著作の多くは,1980年代になって日本の社会科学者によって翻訳もしくは解釈され,浪人時代から大学1年ごろまでの「かぶれた時期」には,まだ多くは出版されていなかったのだ。
そして,時代は巡り,都心居住をテーマに博士論文を書きあげ,それ以前からその必要性を感じ指摘してはいたが,これからの時代の都市計画では,行政,住民,企業による協働が必須になる,これをテーマにした研究に取り組もう,と本格的に考え始めたころ,ハバーマスの「公共性の構造転換(新版)」に出会う。その訳本の本文ではなく,むしろ
日本での新版の発売に際し,新たに寄せた序言での論述に強く惹かれた。社会に横たわる公共性は,政府が決定するものではなく,多様なアソシエーションの発意によって齎されるものであり,その担い手はそうしたアソシエーションに集う一人一人の市民である,という視座は,都市計画に対するまちづくりの位置付けを明確にしてくれた。
そして,やや遅れて,Patsy HealeyやJudith Innes に出会う。表題の図書で,Healeyは,こうした多様な主体による発意を前提とした都市計画の理論的枠組みを明確に提示し,また,そのような状況に置かれた中,各都市の都市計画がどのように変貌しているのかを明確に記述していた。新しい時代の都市計画の姿を明確に示そうした,力作であっ
た。その理論的支柱として,ハバーマス,そしてギデンスが存在し,更には公共的意思形成に関連した理論枠組みを提示したBrysonらの論も紹介されている。今もって先端的な都市計画理論とされる Communicative Planning は,この Healey や Innes によるところが多く,関連の論文を含め,一読の価値がある。
さらに遡れば,Paul DavidoffのAdvocacy Planning こそが,多様な発意に基づく都市計画への転換を,価値が多元化するアメリカを舞台に,ハバーマスよりも先に問題提起していた。都市計画は,社会の諸相が端的に現れる最先端の現場,とも言えるだろうか。以下,本書に関連して一読の価値がある文献。
Judith E. Innes, 1996, Planning through Consensus Building, A New View of the Comprehensive Planning, JAPA, autumn, 62;4, 460, 472
Bryson and Corsby(1992) Leadership for the common good: Tackling public problems in a shared power world(San Fransisco: Jossey-Bass)
Paul Davidoff , 1965, Advocacy and Pluralism in Planning, Journal of the American Institute of Planners, 11, 31
紹介:東京大学教授 小泉秀樹
(都市計画341号 2019年11月15日発行)