企画調査委員会

名著探訪

日本の植生

宮脇昭 編

小学館/ 初版1977年

 本書は,当時の生態学の最先端の研究者が協働して取り組んだもので,植生と植物群落,潜在自然植生と人為の加わった代償植生との関係などの理論と,日本の植生の実態を網羅的に取りまとめている。しかも一般の人が理解できるよう多くの図表とルビ付きの文章で構成されており,極めて平易で分かりやすい。
 本書の価値は,気候や地形などの自然条件に加え人間の行動という社会条件の影響下で成立しているのが植生であり,植生を構成する植物群落を土地の自然条件,社会条件の指標として用いることができることを示している点にある。当時大学の専門課程に進んだばかりの私にとって,自然条件,特に植物を用いて環境条件が判断できるという考え方は斬新で刺激的であり,卒業研究で都市に残された自然的空間である浜離宮庭園の植生調査に取り組むことにもつながった。
 都市計画の分野では,都市と自然は対立しがちで,都市をつくるためにはある程度自然を破壊,征服することを避けて通ることはできない。しかし,自然立地を考慮したうえで土地利用計画を検討し,自然との対立を防ぎ共生を図ることが重要である。このような考え方は,この欄でも紹介のあったマクハーグのデザイン・ウイズ・ネイチャーで展開されたものでもあるし,注目されているグリーンインフラの考え方にも通じ,さらには今後の都市の縮退の議論にも有効なのではないか。
 今日では環境アセスメントの手法も発達し,都市計画においても自然条件調査は当たり前に行わるようになった。しかし植物にも地域や地形等の条件によって適材適所があることを知り,これらのつながりを一つの文脈として読み込むことが,これからの都市における自然のあり方を理解し,一層自然を利活用した都市計画につながることになる。その意味で,土木系や建築系から都市計画に進まれた人にこそ,お薦めしたい著作である。
 なお,編者の宮脇氏は,東日本大震災からの復興に対して,津波がれきをそのまま堤体に用いて常緑広葉樹林を植栽する森の防潮堤を提唱されたが,この考え方には,津波がれきを用いた堤防の強度,周辺環境への長期的安全性,常緑広葉樹の夏緑(落葉広葉)樹林地帯の海浜砂丘部への適性などの問題があり,国土交通省ではそれらの問題を考慮に入れ,「東日本大震災からの復興に係る公園緑地整備に関する技術的指針」を筆者が執筆責任者として取りまとめたことを申し添えておきたい。

紹介:宮城大学教授 舟引敏明

(都市計画342号 2020年1月15日発行)

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