企画調査委員会
新しい地理の授業
二宮書店/2019年
本書を読んでまず感じるのは,「新しい地理の授業」と都市計画との近さである。「持続可能な地域づくりと私たちー自然環境と防災」で紹介されるハザードマップや地図を用いた防災教育,「生活圏の調査と地域の展望」で紹介される通学ルートの調査,町の歴史的変遷を地図で追う授業など,大学の都市計画・まちづくり専門教育や,市民参加のまちづくりワークショップも参考になる優れたプログラムである。
本書は2022年から高等学校で必修化される「地理総合」の授業に向け,現場の地理教員たちの実践教育の蓄積を持ち寄って構成されている。都市開発と自然環境保全のはざまで未だに答えの出ていない公園整備を扱うなど,社会的課題の解決を考える授業も含まれている。
共通しているのは,授業に使われる「教材」の手厚さである。個々の学生に理解してほしいポイント,互いに考え,議論してほしい内容への道しるべが示され(伏線が張られ…)ており,その過程は生徒に還元されている。生徒自らの成長を助け,検証する高等学校教育の特徴であり,成長の「治具」として用いられる「教材」の魅力には地理教員の指導への矜持が現れているのであろう。大学専門教育では,小レポートの課題や評価が十分学生に還元されないまま期末の最終試験に至ったり,実習で学生の提案内容から一人歩きしたエスキス・講評が進む場面に出会うことは少なくない。私自身反省しつつ,気を引き締め,意識を高めなければならないと感じた。
また本書は,高等学校「地理総合」の必修化によって都市計画分野がどのように変化するか?その兆しを知る機会にもなる。今後,ある年齢層より若い市民は,都市計画分野の基礎教養を学び・経験する。よく考えられ,優れたプログラムで育成された次世代が社会を牽引する「力」となり,都市計画・まちづくりの専門家も,こうした教育に関わる機会も増えていくだろう。
都市計画学会は「地理総合」教育への支援に向け準備を開始しており,2019年11月全国大会ワークショップ等で議論を深めつつある。2020年度より取り組みは本格化する予定である。「都市計画」に関わる機会を得,期待を寄せた若い人たちに,(用意された教材の先にある)現実社会の課題に日々立ち向かう専門家が,どのように立ち会い,支援していくか?私たち学会員に求められる新たな社会的責任を感じつつ,本書をお薦めしたい。
紹介:工学院大学教授 篠沢健太
(都市計画346号 2020年9月15日発行)