企画調査委員会

名著探訪

アーバンエコシステム:自然と共生する都市
原題「THE GRANITE GARDEN : Urban Nature and Human Design」

Anne Whiston Spirn 著/高山啓子他 訳

(株)公害対策技術同友会/1995年

 本書は1984 年に「THE GRANITE GARDEN(御影石の庭)」として,アン・W・スパーン氏により出版されたものである。アメリカ合衆国造園家協会大統領優秀賞を受賞するほか,我が国でも,本書を中心とした一連の著作等により2001 年にコスモス国際賞((公財)国際花と緑の博覧会記念協会主催)を受賞している。
 スパーン氏は「Design with Nature」(1969)の著作で知られるIan L. McHarg 氏の後任として,ペンシルバニア大学ランドスケープ学科教授となり,その考え方は,後の「ランドスケープ・アーバニズム」にも継承される。
 本書の底流をなす,都市に関する基本的考え方は,都市の大気,土,水等は,都市の自然そのものであり,都市は自然と対立するものではなく,自然の一部として存在している,というものである。注目すべきは,都市活動に起因する様々な環境問題について,その事象を科学的に分析・把握し,自然との共生,都市計画の視点に立って,改善方策を総合的に再構築している点であろう。
 1993 年の環境基本法の制定以来,建設省都市計画課においても,エコシティ等都市計画に「環境」をより内部化する方策について議論となった。個人的な話で恐縮であるが,当時,環境に関する都市計画のあり方のとりまとめを行った際に,本書は参考とした書籍の一つであった。
 ヒートアイランド対策大綱,低炭素まちづくり法,生物多様性に配慮した緑の基本計画等近年の「環境」に配慮した一連の都市計画関連施策は,本書の延長線上にあるともいえよう。
 さて,本書の思想は,その目次構成を見れば一目瞭然であり,「1 都市と自然」「2 大気」「3 土」「4 水」「5 動植物」「6 アーバンエコシステム」となっている。都市におけるこれら自然環境の問題について具体的に論じるとともに,「すべての都市のための計画」として,その改善方策を述べている。その中には,今日一般に使用される都市のヒートアイランド化や「風のみち」,都市のエネルギー問題や水循環などについても既に言及されている。
 「環境」に配慮した都市計画は今日ではかなり普遍化している。本書で述べている内容も現代においては,旧聞に属することもあろう。しかし,「都市の自然環境が有する可能性を見逃さず,目先の費用負担や利益にもとらわれず」,人間による数知れない環境への影響を改善するためには,「従来の考え方を一旦白紙に戻した都市づくりへの新鮮な姿勢が必要だ」と述べる著者の気概に接するのも良いのではないだろうか。

紹介:中央大学研究開発機構,(公財)都市緑化機構 梛野良明

(都市計画348号 2021年1月15日発行)

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