企画調査委員会

名著探訪

Town Planning in Practice

Raymond Unwin 著

T. Fisher Unwin Ltd., 1909, the second edition, 1911 reprint, Princeton Architectural Press, New York, 1994

 私は,建築デザイン論,特に英米近代建築の形態分析を専攻し,そこから郊外論,都市基盤論,オリンピック論へと,建築と都市を繋ぐデザイン論を展開してきた。学位論文で,エドワード朝の代表的建築家エドウィン・ラッチェンスの住宅平面に見られる軸構成を分析していた時,ウィリアム・モリスの「赤い家」以降の近代住宅が「郊外」に立地していることにはたと思い至った。そして学位論文の執筆と並行して「郊外」住宅─住宅地の研究を進め,それを『イギリスの郊外住宅─中流階級のユートピア』(住まいの図書館出版局,1987 年)として出版した。
 その際に精読したのが,Raymond Unwin, Town Planning in Practice , T. Fisher Unwin Ltd., London, 1909, the second edition, 1911, reprint, Princeton Architectural Press, New York, 1994. である。レイモンド・アンウィンは,周知の通り,第1田園都市レッチワース,ハムステッド田園郊外などを設計し,「都市計画の父」と称された建築家・都市計画家である。本書は,そうした実作の設計に当たってアンウィが参照した事例や考案した理論・設計手法を,美しい図版とともに解説した大部の教本である。
 アンウィンは,都市計画の経済性や社会性を芸術性,すなわち「都市芸術」に結びつけて論じている。有名な「1エーカーにつき12 戸」という主張について,第2 版序では1 エーカー 12.4 戸の大街区型開発と1 エーカー25 戸の路地型開発を比較して,前者の方が経済的であると言う。またラスキン,モリスの影響を受け,「都市芸術は,そのコミュニティ生活の表現でなければならない」として,コミュニティ・ライフが充溢していた中世ヴィレッジを参照すべきであると言う。アンウィンの「都市芸術」の要諦とは,建物をクラスター化して,良き「ストリート・ピクチュア」を得ることにあり,そのためには,道路の大まかな位置を決め,建物を大まかに配置して,良き「ストリート・ピクチュア」を得た後に敷地割をすべきであると言う。二次元平面上でオープン・スペースを画するのではなく,3 次元空間中でオープン・スペースと建物というヴォイドとマスの関係をスタディすること,それには建物配置と敷地割の順序を入れ替えることが必須となる。ここに,私は建築と都市双方のデザインを繋ぐ接点を見
出したのであった。

紹介:名古屋大学名誉教授 片木篤

(都市計画350号 2021年5月15日発行)

一覧へ戻る