企画調査委員会
交通まちづくりの時代
:魅力的な公共交通創造と都市再生戦略
ぎょうせい/2002年
本書は,クルマ社会が及ぼした様々な弊害を克服するために,過度のクルマ利用を抑制するような交通マネジメントの取り組みの必要性を説いた書である。
内容としては,まず当時の欧米先進諸国におけるまちづくりと交通マネジメントの状況,およびフランスにおける国内交通基本法にもとづく交通権と交通税について述べた後,ストラスブール市の先進的なLRT によるまちづくりの経緯を詳述している。「都市交通計画に都市計画(土地利用)を方向付ける主導的役割を与える。」という部分は大変興味深い。それに続いて,LRT を軸としたパリ首都圏,モンペリエ市,オルレアン市などの交通マネジメントの紹介となっている。
次に,米国では総合陸上交通効率化法の制定により,公共交通に対する強力な支援制度が中央政府レベルで出来上がっており,ガソリン税などを財源とした軌道システムの新設・延伸を始めとして,公共交通の運営補助にも道が開かれていることを述べ,ポートランドにおける都市の成長管理とストリートカー,MAX などのライトレールの導入を基軸とした都心部の開発(TOD)の経緯が述べられ,興味深い。
さらに,ABC ポリシーと呼ばれるオランダの土地利用政策,アムステルダム市の駐車場制限と道路車線削減,自転車道ネットワークとバス専用レーンのネットワークづくり,ドイツのカーシェリング,路面電車と鉄道の相互乗り入れ,パークアンドライドなどの様々な施策が網羅的に紹介されている。
締め括りとして,欧米の先進国の取り組みと対比する形で,わが国でも路面電車の専用空間を道路の一部と認めたこと,トランジットモールの社会実験とその後の状況,自転車のまちづくり,一貫性のない駐車政策,バスの需給調整廃止後のコミュニティーバスへの変化などが縷々述べられ,わが国の公共交通は「独立採算の原則」に縛られており,地域経営としての採算性の考え方が足りないと説いている。
このように,本書は,2000 年前後における欧米先進国の交通マネジメントの施策とその経緯を豊富な事例を交えて紹介したものであり,交通まちづくりを学ぶには格好の書であると思われる。
紹介:外井哲志
(都市計画351号 2021年7月15日発行)