企画調査委員会

名著探訪

都市ヨコハマをつくる
:実践的まちづくり手法

田村明

中公新書/1983年

 本書は,著者の田村明氏が,民間から横浜市役所に身を転じ,1968 年から1981 年までの間,企画調整局長,技監などを歴任しながら,実践的に推進したまちづくりの記録である。
 当時の横浜市は,戦災の傷跡も癒えない都心を抱えたまま,爆発的な人口増加を受け,郊外の丘陵部は虫食い的な開発に晒されるなど,数多の都市課題を抱えていた。そのような状況下において,著書は,優先すべきシンボル的な事業として,高速道路地下化と大通公園による緑のネットワーク,六大事業,宅地開発指導要綱による土地利用コントロール,アーバンデザイン,歴史を生かす都市づくり,市民参加などを掲げて,課題解決に取り組んでいく。自らの担当部局である企画調整部局を中心に庁内の関係部局,市民,専門家などの力を結集して,まちづくりを進めた著者は,その仕事を「ヨコ糸を通す仕事」と呼んでいる。およそ半世紀近くを経た現在,より複雑化している都市課題の解決,まちづくりにおいても関係者を調整して課題を解決していく「ヨコ糸を通す仕事」の重要性は,より増しているように思う。
 個々の取組みの中で,特に紹介したいのは,アーバンデザインの取組みである。横浜市に全国の自治体で初めて「都市デザイン担当」が置かれたのは,1971 年であり,50 年以上前のこととなる。当時から都市の個性や魅力に着目した取組みを行っていたことは特筆すべきと思われる。当時の取組みにより実現した空間としては,旧市庁舎前の「くすのき広場」,山下公園前海岸通りや桜木町,関内,石川町と山下公園を結ぶ都心プロムナードなどがあげられている。これらの整備は,公共側だけではなく民間の協力も得て行われ,さらには民間独自の取組みにも波及している。「ウォーカブルなまちづくり」につながるものがあり,大変興味深い。
 残念ながら廃刊となっているが,横浜市の都市計画史,日本におけるアーバンデザインの創成期や市民協働などを学びたいと考えている方だけでなく,様々な関係者をまとめていく仕事の進め方のヒントを得たい方にもお勧めしたい。
 1987 年に偶然本書を手に取った紹介者は,在籍していた専攻とはまったく異なる都市計画の道に踏み出すことになり,現在に至る。本書は紹介者にとって,人生を変えた一冊でもある。

紹介:株式会社大林組 千葉 孝之

(都市計画354号 2022年1月15日発行)

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