企画調査委員会

名著探訪

「都市計画」の誕生
:国際比較から見た日本近代都市計画

渡辺俊一

柏書房/1993 年

 齢をとって,名著に感動した記憶も随分薄れた。それに本コラムは既に108 号に及ぶ。名著の名を馳せた著述や気になる新刊本は,もう誰かが紹介している。ここは同時代の先輩の著書ではあるが,若い頃,私に「近代都市計画」とは何かを教えてくれた玉著を紹介する。
 著者渡辺俊一氏には,本著刊行の 9 年前,英米滞在を含め英米都市計画の長年の調査研究をまとめた「比較都市計画序説」(柏書房,1985)の刊行がある。本書は,それに依拠する「比較都市計画論」から導出して,我が国の「市区改正条例」「旧都市計画法」時代の都市計画と同行政の未熟を論じ,旧法以来半世紀を経て抜本改正された新法の時代の都市計画のあり様と,それへの期待を,新法制定来25 年にして,論述したものである。
 同書に拠れば,「近代都市計画」とは,「望ましい都市像」の論であるのみではなく,「政府と市場との都市計画」である,としている。近代都市計画の発足時期(1919)は,欧米に比して遜色ないにも拘らず,わが国の旧法体制は,開発のための都市像追究に限られ,都市像を総体的に論ずること無く,「開発の禁止」「開発の強制」を欧米に学ぶことがなかった。著者は新法時代の「公共介入と市場機構との協働作用」の必要を論じ,「強い公共介入」を主張している。
 往時私の本書読後の強烈な記憶は,“米国の郊外における「土地分割規制」が,地区の貧民排除に使われる” という事例であった。大きく育った中産階級の財産保有意識の蔓延は,「強い公共の介入」無くしては都市計画の公正を貫徹できないことを知らされた。
 そして,新法体制から50 年余,本著刊行から30 年。“人々の生活の場としての都市を,市民の営為の有り様とともに計画する” という著者の期待は順調に達成されているか。近時の都市計画研究者(特に若い)の責務は大きい。また昨今,公共の財源逼迫を補う為,あるいは都市経営への市民参加を促す為,PFI やPPP が提唱されている。
しかしそれは民間資本の収益至上主義に飲み込まれないことが必要である。又,PPP の二つ目のP にはPrivate(民間資本)だけではなく,People(市民)が対等に認識される必要がある。
 今や著者の言う「近代都市計画」から「市民的都市計画」への移行が愈々求められている。

紹介:岐阜大学名誉教授 竹内伝史

(都市計画357号 2022年7月15日発行)

一覧へ戻る