企画調査委員会

名著探訪

アーバン・パターン 都市の計画と設計

A.B. ガリオン・S. アイスナー 著/日笠端 監訳/森村道美・土井幸平 訳

日本評論社/1975 年

 原著(The Urban Pattern:city planning and design by A.B.Gallion & S.Eisner)の初版は1950 年,本書はその第二版(1963 年)の邦訳である。私自身,都市計画を専攻しはじめた大学院生時代に研究室の書棚でこの原著を手にして,数人で部分訳を試みたこともあった。
 1960 年代から1970 年代にかけては,土地利用計画,交通計画,ニュータウン計画,都市デザインなど都市計画関連の大型図書の邦訳版が相次いで出版された時代で,それらを通じて海外での新しい都市計画の動向やその計画・設計技法への関心と理解が広まった。そうしたなかで本書は,都市計画の歴史とともに現代都市計画・設計の実践的・実務的テーマを幅広く総合的に扱っていて,当時の米国で学生向けの教科書・参考書として定評があったものである。
 本書は,古代都市から産業革命までの都市計画史の第Ⅰ部と第Ⅱ部,都市計画の制度的枠組みと都市計画技法の第Ⅲ部と第Ⅳ部,さらに都市再開発,ニュータウンなど新しい動向の第Ⅴ部の5 部,全20 章からなるが,ゼミなどでテーマに応じてそれぞれを独立したテキストとして読むこともできた。
 そして本書の何よりもの特色は,その序文にもあるように,さまざまな都市計画・設計事例を紹介する豊富なイラストレーションと説明文で,そこから都市の計画・設計への興味を抱くようになった読者も多かったのではなかろうか。
 このように記すと,本書を事例紹介中心の教科書本と誤解する向きがあるかもしれないが,決してそうではない。著者たちの関心は一貫して現代都市の抱える課題とその解決策としての都市計画・設計にあり,そのことを都市プランナーの立場から追求した優れた研究書でもある。
 1978 年に著者の一人ガリオンの死去後も原著は,第四版(1980 年),第五版(1986 年),第六版(1993 年,アイスナーの子息が共著者に加わる)まで改版され,1999 年にアイスナーも死去。その都度,都市の成長管理,都市デザイン,都市のアートなど新しい視点を加えて改編・増補され,普及版での重刷もされている。これからも読み継がれてよい良書・名著の改訂・再翻訳が待たれよう。

紹介:神戸大学名誉教授 安田丑作

(都市計画358号 2022年9月15日発行)

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