企画調査委員会
未完の東京計画:実現しなかった計画の計画史<ちくまライブラリー 68>
筑摩書房/1992年
筆者が大学生となり都市計画を学び始めた1980 年代は,折しも都市論/東京論ブームが到来していた。雑誌「東京人」は1986 年の創刊である。また1985 年には陣内秀信「東京の空間人類学」が,1986 年には藤森照信「建築探偵の冒険・東京篇」が相次いでサントリー学芸賞を受賞する,といった時代であった。
そのようななかで都市計画,なかでも東京の都市計画に自然と関心が向く中で,石田頼房編「未完の東京計画実現しなかった計画の計画史」を手に取る機会を得た。当時,東京の都市計画に関する書籍が数多く出版される中で,とりあえずは「未完の東京計画」というタイトルに惹かれて読み始めたのがきっかけだったのだと思う。取り上げられている日比谷官庁集中計画や東京緑地計画,第一次首都圏整備計画,東京計画1960 といったトピックは,教科書では事実の端的な紹介にとどまることが多いなかで,読み物としても面白く楽しんだと思う。
しかし本書の冒頭,「都市計画史の裏面を覗こうとしているように受け取られるかもしれない。しかし,決してそうではない。・・・実現しなかった背景と理由を探ることによって,当時の都市計画家たちの考えやそれをとりまく社会,政治の状況が,ある意味では,よりよく見えてくる場合が少なくない。また,その計画が実現しなかったことが東京の都市計画に決定的影響を与えているというような場合もある。そのような場合は,実現しなかった計画を語ることこそが,東京の都市計画の正史なのである」,と述べている意味が実感を伴って理解できたのは,ずっと後になってであった。社会人となり杉並に居住すると,「東京市近郊町村区画整理計画」が幻と終わったことによって,迷路的な魅力ある市街地が残ったともいえるが,基盤未整備地域が今なお課題を抱えていること,近所にある善福寺公園が東京緑地計画や防空空地帯と関連が深いことなどを知ることとなった。また中野区の建築審査会では,戦前に指定された建築線への接道が現在でも有効であるか,審査請求された事案に関わることがあった。こういった出来事を体験しながら折に触れて読み返すと,あらためて理解が深まることが幾度もあった。
本書の終章のタイトルは「不確実な時代の未来計画をこえて」である。発刊からちょうど30 年を経た今でも全く違和感がないことに驚く。あらためて手に取って読んでほしい。
紹介:芝浦工業大学教授 桑田仁
(都市計画359号 2022年11月15日発行)