企画調査委員会

名著探訪

①敷地計画の技法/Site Planning 初版1962 刊の邦訳本
②[新版]敷地計画の技法/Site Planning Second Edition 改訂版 1971 刊の邦訳本

①ケヴィン・リンチ 著        ②ケヴィン・リンチ 著
 /前野 淳一郎・佐々木 宏 共訳     /山田 学 訳

 鹿島出版会/1966 年         鹿島出版会/1987 年

 著者は米国シカゴ 1918生まれイェール大学(1935-7:17-19才)卒業後 19-21才でフランク・ロイド・ライトの下で働き,軍務(1941-6:23-28才)に服した後にマサチューセッツ工科大学で都市計画を学び,学位取得後は同大学で教壇に立ちつつ 1960年 42才で有名な『都市のイメージ』そして 2年後に本書初版の発刊である。
 都市計画の新分野確立をめざした実務研究の成果を「空間計画技法」として明確に提示した本で,最初の邦訳本が出た 1966 年で既に第 3 版を重ねて,後に大幅改訂された Second Edition も邦訳『新版・敷地計画の技法』として発刊されている。さらに,共著版Tird Edition も大量に資料追加・再編成されて発刊(未邦訳)されるなど,珍しい経緯を有するだけでなく,未だ追随本も殆どない貴重分野の本となっている。
 土木系出身の私が,多摩ニュータウン開発で宅地造成を担当した際に先輩達から指導された内容は,大学3年時で買って読んでも殆ど理解できなかった本書による,と解され,その後「愛読書」になれど,邦訳が少し難解(英語の原文を見ると,入門書にふさわしく実に易しく書かれているけれども..)で苦労した思い出がある。
 原著Site Planning は日本語の『敷地計画』だけでなく『土地開発計画』まで含んでいるが,本書名が未読者に誤解を与えている可能性もあり,日本では読者層を拡大できていない気がして少々残念である。だから,原著で読む,ことを薦める。本書は,今やインターネット上で世界中に紹介されている都市計画界の名著である。
 私は本書を非常に気に入っているだけでなく,昨今,都市計画界が分析的に過ぎて『絵』による概念図解や全体統合への軽視や欠如を憂える観点からも,今までおこなってきた各大学の講義では,彼ケヴィン・リンチのフリーハンドシングルラインによる大量かつ巧みな解説図を随時紹介してきた経過がある。
 なお,本書の良さは,新旧二冊の『ブックカバー見返し』や『訳者あとがき』にも現れており,それらを先ず読んでから「本文に取り組む」のが良い,とも考えている。

紹介:(株)都市設計工房代表 成瀬惠宏

(都市計画361号 2023年3月15日発行)

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