企画調査委員会

名著探訪

サンフランシスコ都市計画局長の闘い:都市デザインと住民参加
Making City Planning Work

アラン・ジェイコブス 著/蓑原 敬 他訳

学芸出版社/1989年

 本書は,アメリカで 1980 年に出版された名著,カリフォルニア大学名誉教授,元サンフランシスコ都市計画局長Allan B. Jacobs による Making City Planning Work(都市計画を機能させる)の翻訳書である。市民運動の奔流の中で経済開発と成長管理がせめぎあう 1970 年代初頭,都市計画の有効性を信じ,現実と格闘しながら都市計画を大きく動かし,今日のサンフランシスコの都市づくりの基礎を築いた都市プランナーの 8 年に及ぶ経験,実績を振り返り,反省と評価が総括された率直な回顧録である。A. Jacobs は私がカリフォルニア大学大学院に留学した際の指導教授であり恩師である。私が留学した時期はちょうどサンフランシスコ市都市計画局長を辞して,カリフォルニア大学の都市地域計画学科の学科長に就いて間もない頃で,彼の講義・ゼミでは,都市計画局長としての経験をもとに,本書において述べられているように実践的な課題の解決と民主主義社会のおける都市計画のあるべき姿,都市プランナーの役割について,学生に情熱的かつ率直に語りかけていた。それは都市計画の教科書とは違う,説得力に富んだもので,私にとっても米国の生きた都市計画を理解し,さらに興味を刺激するに十分過ぎるものだった。彼は,当時こうした講義・ゼミと並行して本書の執筆に取り組んでいた。本書は,私自身にとって米国での都市計画を理解する貴重な図書であったが,都市計画の背景や社会的認知が異なる日本で直ぐ翻訳して紹介しても有用だとは思っていなかった。本書の出版から 15 余年後に都市プランナーの蓑原敬さんから,今の日本であればこの本を翻訳する価値があるから,一緒に翻訳しないかと声が掛かり,蓑原敬,小川富由,蓑原建,西村幸夫,大方潤一郎,若林祥文,佐藤滋,中井検裕,吉川富夫,木下眞男,そして私で翻訳に取り組んだ。また翻訳作業と並行して,蓑原さんを中心に我が国の都市計画についての勉強会を数年行ったが,その切っ掛けとなった図書であり,個人的にも思い出深い本である。出版後 40 余年になるが,市場原理が支配する現在の日本都市の状況において,改めて都市計画の有用性や都市プランナーの役割を再考する上で,日本のプランナーにも参考になる図書である。

紹介:工学院大学名誉教授 倉田直道

(都市計画362号 2023年5月15日発行)

一覧へ戻る