企画調査委員会

名著探訪

余談亭らくがき

石川栄耀 著/余談亭らくがき刊行委員会 編

都市美技術家協会/1956 年

 私が学生時代研究室の本棚をあさっていた時,一見して他の書籍と異なるタイトル,装丁の本に目が止まった。それが「余談亭らくがき」である。限定1000 部,A5 版416 ページに石川栄耀先生の論稿を収めた遺稿集である。目白にあった石川宅の庭入口の標札が「余談亭」。「用談お断り」のつもりだが「人生は余談にあり」といった気持ちも入れているとのことである。
 内容は「広告,都市美に関する随想を主として,随筆,日記,詩歌等を収録」としているが,それに加え都市の問題について石川先生が心身を尽くされ,指摘されていた事柄の一端がわかりやすく読み取れる。本書は学生諸氏にとっても気づかされる事がある内容となっていると思う。
 今回の紹介では,本に登場する「私」という主語に着目した。
 ほかの主語としては,「我々」「日本人」「学生」「市民」「お客様達」「子供達」「市長」「人間」「学者」「議員」「文人達」「皆」「彼ら」「自分」「私達」「知事」「都市計画家」「代議士」「実業家」等々がでてくる。
 「私」で始まる言葉は,「あなた(読者)はどうなのだ」,「あなたはどう考えるのか」を問われている気がする。本書に記載されている「私は・・・」の締めの言葉の一部を以下に列記してみる。「私は」に続いて音読してもらいたい。
「とり上げてみたいと思います。」「良い事なのだと思います。」「文句を云うのではない。」「考え直し,作り度い。」「必要があると思います。」「提示する。」「解らないところがある。」「信念を持っている。」「間違っていると思う。」「忘れられない事がある。」「転じていった。」「言わざるを得ない。」「オドロイた。」
 本書は大きく三部構成となっている。『広場』には「江戸から東京へ」「広場抄」「都市美鑑賞」「ヨーロッパの都市・日本の都市」「ヴイナスの誕生」「私の都市計画史」が収められている。『晩餐』は「どんたく亭夜話」「おきなわものがたり」「風景泥棒」「落語談義」という構成で随筆などが収められている。最後の『微風』は詩歌,日記の一部を収録している。限定本ではあるが一度手にしてみてはいかがですか。

紹介:早稲田大学名誉教授 中川義英

(都市計画363号 2023年7月15日発行)

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