企画調査委員会
ヒルズ 挑戦する都市
朝日新聞出版/2009年
森ビルの故森稔会長が自身の都市論を語った著書である。
六本木ヒルズの開業から20年の今年,森ビルが推進してきた麻布台ヒルズと虎ノ門ヒルズ・ステーションタワーの2つのヒルズが竣工・開業する。
麻布台ヒルズは区域面積8.1haで,約6,000m2の中央広場を含む約24,000m2の緑地の中に,事務所や住宅,医療機関,ホテル,商業施設,インターナショナルスクールなどを配置している。ARKヒルズや六本木ヒルズなど,これまでのヒルズで培ったすべてを注ぎ込んだ「ヒルズの未来形」と謳っているプロジェクトである。コンセプトは,『緑に包まれ,人と人をつなぐ「広場」のような街 “Modern Urban Village~Green &Wellness~” 』。
これに対し虎ノ門ヒルズは4 つのプロジェクトで構成され,虎ノ門ヒルズ森タワーに始まる「国際新都心・グローバルビジネスセンター」の形成が今回のステーションタワーの竣工・開業で一区切りつくことになる。環状2号線やBRTの発着場などの交通インフラも同時に整備してきているが,ステーションタワーでは,日比谷線虎ノ門ヒルズ駅(新駅)と街の一体的な開発によって,開放的な地下鉄駅前広場を創出している。さらに桜田通り上には既存のデッキレベルにあるオーバル広場へと接続する幅員20mの歩行者デッキを整備して,地上・地下・デッキレベルにおけるウォーカブルで重層的な交通ネットワークを強化・拡充している。
この2つのプロジェクトは一見全く異なる個性を有しているわけだが,両者の根底には「ヴァーティカル・ガーデン・シティ(垂直の庭園都市)」という考え方が根底にある。太陽光を必要としない用途やインフラは地下やデッキ下に配置し,超高層化することで生まれる地上の空間を人々の営みを豊かにするために活用するという考え方である。ある程度まとまったエリアを開発することで実現することができ,良好な都市環境と東京の国際競争力強化に寄与する様々な機能を備えることが可能となる。
本書は,著者がいかに考え,行動して,ARKヒルズや六本木ヒルズを作り上げ,「ヴァーティカル・ガーデン・シティ」という考え方に至ったかが語られているが,最後の部分では「どこが適地かはあくまで市場と住民が決めること」,「たくさんの方々と都市の未来について語り合い,協働していきたい」と述べている。本書を読むことで東京や都市の未来を考えるきっかけになればと思う。
紹介:森ビル株式会社 田中敏行
(都市計画366号 2024年1月15日発行)