企画調査委員会

名著探訪

ポートランド:世界で一番住みたい街をつくる

山崎満広

学芸出版社/2016年

 私事ですが,昨年,初めてポートランドを訪れる機会を得ました。同地に詳しい方に同行したのですが,とは言え,自分なりに予習をということで頼りにしたのが本書でした。
 著者の山崎満広氏は,2012 年から同市の開発局のビジネス・産業開発マネージャーや国際事業開発オフィサーとして活躍されました。開発局の役割は,ハードの再開発だけでなく経済開発事業と両輪で取り組むというもので,現在のポートランドが築かれるにあたっての中核的な役割を果たした機関であったとのことです。本書は,著者がここで実務を担いながら得られた貴重な経験や知見を踏まえてまとめられたものです。
 ポートランドがなぜ大幅にCO2 排出量を削減しつつGRP(域内総生産)を着実に伸ばしてきたのか,全米の暮らしやすい街ランキングで常に上位に顔を出し,多様な人々を惹きつけ,人口を増やしてきたのか。
 都市成長境界線や公共交通ネットワークなどによるコンパクトシティの形成,徒歩20 分圏コミュニティ,エコディストリクト,ミクストユース,これらを実現するための都市再生やTIF,BID などの導入,市民参画型のまちづくりを支えるネイバーフッド,産業クラスター支援やスタートアップ育成を行う経済開発戦略などについて,ポートランドという都市やそのコミュニティの生い立ち,行政が中核となり関係機関,市民,民間企業を組み込んだ仕組みづくりなどと併せて,具体的な施策や取り組み事例が網羅的に整理されており,その成果として形成されてきたまちの魅力,そこに暮らす人々の豊かな営みも紹介されています。
 また,最終章では,行政と民間企業が連携して行う環境都市開発のブランディングとそのノウハウの輸出の取り組みについても記されています。
 ポートランドもコロナ渦の影響を被り,ダウンタウンにおける活気の低下などの爪痕が残る状況でしたが,これまでに築かれてきたシステムがさらに進化を遂げ,新たなまちづくりの息吹も芽生えており,これからも発展を続けていくことでしょう。
 そんなポートランドを訪れる旅人のまち歩きのためのガイドブックとして,また,まちづくりの仕事を志す若者の将来に向けてのガイドブックとしてお薦めの1 冊です。

紹介:株式会社竹中工務店 中津淳

(都市計画367号 2024年3月15日発行)

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